「世界で最も人工知能(AI)を活用するグループにしたい」と語ったソフトバンクGの孫正義会長兼社長の講演動画
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"金魚にabcは分からない"
これが今日のプレゼンの一番重要なメッセージの内のひとつ
開始1分に満たない段階で、ソフトバンクG 代表取締役 会長兼社長執行役員の孫 正義氏(以下、孫氏)がこう発言した。
講演のサムネイルにもなっている金魚とabc。冒頭から引き込まれるメッセージを投げかけられて、これはもう見るしかないと思い、降りるはずの駅をスルーして約1時間程の動画を一気見した。
...というのがこのブログの内容になります。
今回は、多すぎる孫氏の名言を後で自分が見返せるように覚書的な内容にすることにした(一言一句正確にライティングは出来ていない点はご容赦ください)。
AGIの意味を知っている人が少なすぎて苦笑い
講演の冒頭、孫氏が「AGIの意味を知っている人は?」と問いて会場の人に挙手をさせた。すると、手を挙げたのは1人か2人で、孫氏はとちょっと苦笑い。そして、次のように続けた。
「一般の人でAGIを知らない...うーん。まず、"ヤバい"ということを知ってください。日本はヤバい。自分はヤバい。ということを知っていただきたい。今日のプレゼンの中で、AGIの意味・重要性を知ったらそれだけで価値があったと思ってください。」
なるほど。この動画を見ると、AGIは一般企業にはあまり浸透していない印象だ。因みに、AGI(Artificial General Intelligence)についてはソフトバンクのビジネスブログで丁寧に説明されている。
そして孫氏はAGIの可能性を示唆しつつ、次のように発言していた。
「“AIには限界がある”という人がいますが、それはAIに限界があるのではなくあなたの理解に限界がある、と私は申し上げたい。」
「10年以内に人類の叡智の総和の10倍(=何を聞いてもAGIの方が優れた回答・知恵を提供できるレベル)に達すだろう。もしそうなったら、人間ってなんだ?仕事ってなんだ?会社ってなんだ?我々の社会ってどうなるのか?と、ありとあらゆるものに根底からもう一度疑問を投げかけて考え直す必要がある。」
今回の動画では、見ていてちょっとドキッとするような切り込んだ発言が多かった。個人的には、それがとても面白かったし、動画の要所要所で、孫氏が皮肉交じりで私見を話してくれた点も、この動画に引き込まれた理由の一つでもある。
ChatGPT・GPT-4を仕事に活用している人も殆どいない?
AGIに続けて、孫氏が会場内の人に対して「この中で、ほぼ毎日のようにChatGPT、GPT-4を仕事に活用している人は?」と問いかけた。そしてこれも、AGIの認知と同じく、挙手をした人は10%にも満たなかったそうだ。そんな会場内の人に対して孫氏は、
「手を挙げなかった人は、人生を悔い改めた方が良い。自分は今までどういう考えて生きてきたのかと。これはもう、電気や自動車を否定するような人ですよ。人類の叡智の最先端のもの、しかも無料で使えるのに手を付けない、そんな人生観で良いんですか?と僕は問いたい。」
「ハルシネーションがあるだろう、セキュリティ(の問題)があるだろう、とあーだこーだいう人が居ますが、それは電気が時々爆発するだろうとか、自動車がぶつかって事故を起こすだろうとか、そんなことをいう人と似ていますね。」
「新しい文明の進化を斜めから否定する知識人がいますが、それは知識人のフリをしているだけの人。新しい知識を自分が本能的に受け入れられないから貶すことで、さも自分がより知識人であるかの如く振る舞う。こういう人こそハルシネーションだと私は言いたい。後で歴史が、(知識人のように振る舞う)あなたを否定します。」
この辺りから、どんどん切り込む発言が続き、私自身、頷きつつも少しひやひやしながら動画の視聴を続けた。
確かに、IT大手の講演で数人は少ないかも...
権利関係やセキュリティ面を懸念して、利用することに足踏みしている人も多いみたいだよ
GPT-4を毎日のように使っている孫氏
「GPT-4、僕も毎日のように使っています。これを"知識の検索"として使っているのは間違った使い方で、知恵の相談相手として使う。僕は使っているやり方で一番多いのはディベート相手です。」
「最近は自分で壁打ちをするのも面倒臭くなってGPTの中にキャラクターをいくつか作り、キャラクター同士でディベートさせて、僕は審判役で時々茶々を入れるというやり方で議論がガンガン進んでいく。」
「うちの役員とディベートするより...。まあ、GPTの方が少なくとも安くつかえます。」
動画の中で孫氏も発言されていたが、GPTは既に医学試験・法学試験に合格するレベルに達している。生成AIが浸透してからまだ間もないのに、既に平均的な人間のレベルを(あるテーマにおいては)超越しているのだ。そう考えると、孫氏が言っていた「10年以内に、このAIはAGIとして全人類の叡智の総和の10倍位まで優れた知能になる」というのも合点がいく(偉そう)。
合間合間で孫さんがブラックジョーク的な発言をする点もこの動画の面白い所だよ
好む、好まざるに関わらずAI革命はやってくる
動画の中で、孫氏は「AGIはありとあらゆる産業に影響を与え、AGIに取り組んだ企業・人物が10年後、20年後に人類のリード役になるだろう」という未来予想に続けて、これからの産業におけるヒントを下記の5つに分けて説明してくれた。これは、かなり有益な内容だ。
- 様々なモビリティが自動運転へ(より安く・安全に・確実に物や人が届けられる)
- あらゆるデータを活用した完全な需要マッチング(精神論的なものではなく、知恵を使ったJust in time が実現する)
- 個別の顧客の満足度を著しく向上させるカスタマーサービス(相手の問題に寄り添ったより人間らしいサポートの実現)
- 数兆通りのシミュレーションにより最適な戦略や投資を実行(人間が願望を言えばAGIが口座開設から投資運用をし、成果を届けてくれる)
- 遺伝子の解析によるパーソナライズ医療と創薬(患者ごとの遺伝子を解析して最適な医療を実現。人間の医者が聴診器を当てて「トントン」なんてアナログな世界は無くなる)
どうなってんだ日本は
さて、ここからAGIが全産業を変革する話から、企業におけるChatGPTの利用率の話に変わる。
ここでも孫氏は、米国企業でのChatGPTの利用率が51%にも拘らず、日本企業での活用率が7%という低さを嘆き、日本のGDPの低迷と失われた30年を嘆き、こう発言した。
「AIの世界を拒否するか、積極的に受け入れるか、それによってこれから決定的な差が出てくる。」
(中略)
「日本では多くの企業が使用を禁止している。どうなってんだ日本は。甚だ問題であります。一番の日本の・社会の・企業の問題ではないですか?」
確かに周囲の企業でも(主に個人情報の漏洩を懸念して)、使用を規制・禁止している企業がある。だが、そんな懸念はさっさと解消して、AIを産業に利活用していかないと取り残される未来しかない...この嘆きを(動画を通してだが)目の当りにしたらそう思わずにはいられない。
ソフトバンクを世界で最もAIを活用するグループにしたい
ここまで色々と、日本や日本企業へのAGIへの意識の低さを嘆いていた孫氏だが、ここからは「じゃあソフトバンクグループはどうなんだ」ということへのアンサーとして以下の発言をしていた。
「ソフトバンクを、世界で最もAIを活用するグループにしたいという願望を持っている。グループのトップである私が強く信じている。」
縦横斜めに日本の各ユーザー・各企業にタッチポイントを持っているソフトバンクGだが、AIの領域に関しても、AGIの世界を見据えて様々な取り組みを実現し、実際にコスト削減などの実績も出始めているとのことだ。
更にソフトバンクGでは、グループ企業内で、生成AI活用のコンテストを毎月実施しており、提案件数はなんと累計約10万件以上。因みに、優勝者には1千万円の賞金が与えられ、優れたアイデアは「生成AI」というテーマで特許出願もしているらしい。
(あまりにも重要なものは、特許出願すると内容が公開されるから、あえて特許出願していないアイデアもあるとか...)
これだけでも驚くべき内容だが、最も驚いたのは、孫氏ご自身も890件程の提案をしているということ。動画内で孫氏が、
「AGIを最も活用する企業に進化したい。」
(中略)
「やる気になったらやりまっせ、がソフトバンクの文化であります。」
と発言していたが、これらの取り組みはこの言葉の裏付けになる内容だ。
ASIが20年以内に実現する
「人類の進化の源泉は願望にある。"空を飛びたい" "速く走りたい" "病気を治したい" "優れた作家になりたい" "アーティストになりたい"...。AGIの世界が来たら、それをうまく活用できる人とできない人の違いは、強い願望を持っているか持っていないかで決まる。」
「彼ら(AGI)は敵ではない。最強の味方・パートナー・道具である。金魚になりたいのか、なりたくないのか。活用するのか、取り残されるのか。」
...出ました。金魚。何故、孫氏が金魚をやり玉に挙げた発言をしているのかは、ぜひ講演動画を見ていただきたいので、説明は割愛します。
そして、この動画を見た人の中には「AGIでさえ、まだ理解を深められていないのに更にまた新たな用語が...」という方もいるのではないだろうか。何を隠そう、私もその一人。ASIは恥ずかしながら初めて耳にしたワードだ。
ということで、ASIの概要を記載しておきます。
ASI(Artificial Super Intelligence=人工超知能)とは
ASIとは、AGI(汎用人工知能)がさらに進化したものを指します。ASIは、人間の知能を超えたレベルの知能を持つ人工知能で、あらゆるタスクや問題において人間よりも優れた能力を持つことを意味します。
ASIは自己学習や自己進化を行い、知識や能力を飛躍的に向上させ、人間には解決が困難または不可能な問題にも解決策を見つけ出すことが可能とされています。
現在のところ、ASIはまだ理論的な存在であり、具体的な実現はこれからの課題となっていますが、これが現実のものとなれば、その影響は計り知れず、科学技術の進歩だけでなく、社会全体の構造や人間の生活までもが大きく変わる可能性があるとされています。
日本よ目覚めよ。
日本よ目覚めよ。何故禁止するんだ。何故使ってないんだ。
会社よ目覚めよ。
私自身よ目覚めよ。
(中略)
私は進化の側に居たい。取り残される側・古くなってしまってシャッター通りの商店街になってしまっては悲しい。
テクノロジー国家の日本よ目覚めよ。
これは動画開始から55分40秒あたりでの孫氏からのメッセージだ。
さながら煽りのようにも感じる、しかしそれでいて熱いこのメッセージは動画の一番の見どころだと個人的に感じた。
(ご本人も仰っていましたが少々宗教チックな発言になってしまっている所もまた良しです)。
しばしば皮肉交じりで、生成AIにおける企業、そして日本の未来を熱く語ったこの動画は、情報通信業に関わらず全ての業界の方が見て損はない...否、得に溢れた動画だと思う。
この動画を見ようとしたきっかけは、時流に沿った勉強のためだった。しかしそんなことよりもっと、ビジネス視点とかの視野よりもずっと広いところでの何かを気付かされる内容だった。
このような方が日本企業にいてくれているのはありがたいなぁ
本当だね